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目次

大規模災害時の
御遺体対応

御遺体の搬送・収容・管理からご遺族への引き渡し、仮埋葬と改葬、そして対応にあたる人の心のケアまで。平時の備えと現場の手順をまとめた手引きです。

作成:一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事 サニー カミヤ

対象
  • 自治体職員
  • 消防団・消防職員
  • 警察・医師・葬祭業者など関係機関

第1章 全体の流れと体制

大規模災害では、多数の御遺体に限られた人員・場所・物資で同時に対応しなければなりません。場所・物資・手順は、平時のうちに決めておきます。

なぜ平時の備えが必要か

  • 発災直後は時間がない場所・物資・手順は平時に決める
  • 御遺体の尊厳を守る丁寧な扱いがご遺族の心を支える
  • ご家族の大きな悲しみ説明と寄り添いが欠かせない
  • 職員も強いストレスを受ける惨事ストレスへの備えが必要

対応の全体の流れ

  1. 発見・収容発見場所・日時・状況を記録する
  2. 搬送番号を付け、遺留品と一緒に運ぶ
  3. 安置所で受け入れ受付・番号管理・安置
  4. 検視・検案・身元確認警察・医師・歯科医師が行う
  5. ご家族の対面・引き渡し説明・付き添い・書類手続き
  6. 火葬(やむを得ず仮埋葬)広域火葬を優先して調整する

主な関係機関と役割

  • 警察検視・身元確認・ご遺族への連絡
  • 医師・歯科医師死体検案・歯科所見による身元確認
  • 自治体安置所の開設運営・物資・火葬
  • 消防・消防団救助活動中の収容・搬送の補助
  • 葬祭業者・関係団体棺・ドライアイス・搬送・納棺

役割分担は地域防災計画・協定で事前に確認しておきます。

御遺体対応チームの編成

  • 統括責任者全体を指揮し、関係機関と調整
  • 収容・搬送班捜索隊に同行し記録・収容
  • 安置所運営班受付・安置・資機材の管理
  • ご遺族支援班待機所・対面の付き添い
  • 行方不明者班届出を受け、生前情報を記録
  • 火葬・埋葬班許可書類・広域火葬・仮埋葬
  • 情報・広報班件数集計と発表の一本化
  • 本部の下に置く災害対策本部の指揮系統に組込む

出典:Philippines DILG/LGA 行方不明者・死者管理現場マニュアル p.26–27

出動時の初動手順

  1. 先遣班を出す早期に現場の状況を把握する
  2. 事前打合せ目的・方法・役割・必要物資
  3. 本部で到着登録受付をして任務の指示を待つ
  4. 地図と安全装備を受領現場地図・ヘルメット等
  5. 救助を最優先生存者の救出の後に御遺体の捜索
  6. 現場に手を付けない御遺体・所持品はそのまま記録
  7. 情報窓口を開設現場か本部に情報センター
  8. 毎日報告する死者・不明者・判明数を日報で

出典:Philippines DILG/LGA 現場マニュアル p.36, 51–53/NDMA Guidelines Annexure-K

現場評価の確認項目

  • 被害の範囲現場の広さと被害の規模
  • 死者数と状態御遺体の数・損傷・腐敗状況
  • 作業期間の見込み収容・確認にかかる期間
  • 専門機関検案・歯科・DNA鑑定の体制
  • 収容方法必要なチームの編成と班数
  • 搬送手段御遺体・身体の一部の運び方
  • 保管場所安置所・冷蔵設備の確保
  • 行方不明者数届出のあった不明者の数

出典:Philippines DILG/LGA 現場マニュアル p.51(Box C)

第2章 御遺体の搬送

津波などで発見された御遺体を、誰が、どのように安置所へ運ぶか。発見したら、まず警察へ通報し、収容・搬送は警察の指示で行います。

誰が運ぶか

  • 警察通報先。収容・搬送の指示と検視
  • 自衛隊災害派遣で捜索・収容・搬送
  • 消防・消防団救助中に発見した御遺体を収容
  • 自治体車両・安置所の確保と運営
  • 葬祭業者・霊柩車協会協定に基づき安置所・火葬場へ

発見から安置所まで

  1. 安全を確保する余震・津波・倒壊などの二次災害に注意
  2. 警察へ通報する位置と状況を伝え、指示を受ける
  3. 発見状況を記録する写真・GPS位置・日時・状況
  4. 番号タグを付ける身体と袋に同じ番号を付ける
  5. 納体袋へ収納する装着物は外さず、所持品も一緒に
  6. 担架で運び出す4人以上で、足元に注意する
  7. 車両に積み込む1体ずつ固定し、重ねない
  8. 安置所で引き継ぐ受付で番号と記録を照合する

どんな方法で運ぶか

  • 担架・布担架(人力)がれき・泥地では4〜6人で
  • ボート浸水域・水上で発見した場合
  • ヘリコプター道路が寸断された孤立地域から
  • 車両トラック・バン・霊柩車
  • 車両の条件幌やシートで目隠し、荷台は防水
  • 敬意をもって運ぶ1体ずつ、重ねない、丁寧な運転

搬送車両の使い方

  • 救急車は使わない負傷者の搬送を優先する
  • 緊急走行はしないサイレン・高速走行は不要
  • 社名・ナンバーを覆う車両の所有者への偏見を防ぐ
  • 閉じた車両で運ぶ冷やして運ぶ。凍らせない
  • 流用は事前協議車両の使用制限を確認する
  • 返却前に清掃保健部門が清潔を確認・証明
  • 食品用冷蔵車は特に証明書で業者の信用を守る
  • 身元判明後は霊柩車専用車で丁寧に運ぶ

出典:PAHO/WHO 災害時の遺体管理(日本語版)p.16–17, 35

課題(過去の災害から)

  • 搬送路がないがれき・泥・浸水で車両が入れない
  • 車両・燃料の不足運転手・燃料・車両が足りない
  • 安置所が満杯・遠い搬送先が決まらず待機が続く
  • 記録の欠落発見場所や番号が不明で、身元確認が遅れる
  • 搬送者の強いストレス知人や子どもの御遺体を運ぶ負担
  • 外部からの視線報道や住民の目に触れる

改善点

  • 平時に搬送協定を結ぶ霊柩車協会・運送業者・建設業者と
  • ルートと安置所を計画地区ごとに複数の候補を決める
  • 発見現場用キットを常備タグ・納体袋・記録票・担架
  • 記録をデジタル化写真と位置をその場で共有
  • 関係機関の合同訓練警察・自衛隊・消防・自治体で
  • 搬送者を守る交代制・事前説明・事後のケア

第3章 安置所の準備

平時に候補施設を複数指定し、施設管理者と協定を結んでおきます。

遺体安置所の選定

  • 広い屋内体育館・倉庫など
  • 避難所と別にする動線を完全に分ける
  • 車両の出入り搬入口と駐車場がある
  • 冷房・換気夏季の温度管理ができる
  • 電気・水道・トイレ発電機の準備も
  • 目隠し・遮へい報道・外部の視線を防ぐ

安置所のレイアウト例

安置エリア番号順に安置・ドライアイス管理
検視・検案
資機材置場
対面室個室・遮へい
職員休憩所
受付・記録
遺族待合所

▲ 搬入口(車両)

▲ ご家族入口

搬入とご家族の動線を分け、待合所から御遺体が見えないようにします。職員の休憩所は御遺体から離します。

受け入れ時の仕分け

  • 到着時に分類性別・年齢層・体格などで
  • 分類ごとに安置区画を分けて置く
  • 探す範囲が絞れる150体から4〜5体に絞れた例
  • 顔で分かる方を先に確認しやすい順に検視へ
  • 到着時に写真状態が変わる前に記録
  • 検査を重複させない同じ歯科検査を4回した例
  • 清掃要員を確保台の衛生と事故防止
  • 粘着ラベルは不可水や体液ではがれた例

出典:PAHO/WHO 災害時の遺体管理 p.35–38, 144–145

一時保管の方法(冷蔵)

  • 時間との勝負暑いと12〜48時間で顔の判別困難
  • 冷蔵が第一2〜4℃が最適
  • 冷蔵コンテナラックを付けて最大約50体
  • 電力・燃料を確保冷蔵設備は大量に必要とする
  • 凍らせない変色・乾燥で確認が困難に
  • 凍結中は重ねない顔が変形し元に戻らない
  • 冷蔵がない時涼しい日陰の屋根の下に整然と
  • 保管前に必ず袋へ1体ずつ納体袋に入れる

出典:ICRC/WHO 災害後の遺体管理 第二版 第7章 p.23–24/PAHO/WHO p.21, 35, 50–51/NDMA p.18–19

納棺と棺の扱い

  • 検案後に納棺納体袋に納めてから棺へ
  • 棺の大きさ外寸の目安 長180×幅48×高41cm
  • 火葬炉に合うか入らない棺あり。火葬場に確認
  • 番号をそろえる棺の札・所持品袋・御遺体
  • 所持品は棺の上番号入りの袋に入れて置く
  • 副葬品に注意ライター・眼鏡・果物などは避ける
  • 棺は別室で組立て安置スペースと分ける
  • ろうそく・線香火災のおそれ。原則使わない

出典:広域火葬計画 別添「遺体の取扱いに対する心得及び遺体適正処理ガイドライン」2(4)(5)

収容所の資器材(追加)

  • 床の保護シート連結用のビニールテープも
  • 照明・発電機排煙臭・騒音の少ないもの
  • 間仕切り衝立避難者・ご遺族の目から遮る
  • 掲示用ボード番号一覧・進み具合を書き出す
  • 通信・移動手段可搬型無線・自転車
  • 洗浄用具バケツ・タオル・ハンガー
  • 写真の枚数判明は3枚・不明は10数枚
  • 計測用具3m巻尺・30cm定規・ペンライト

出典:東京都「検視・検案等活動マニュアル」p.19, 69–70

第4章 防護衣と感染対策

自然災害の御遺体が感染症の流行を起こすことはまれです。ただし、血液・体液から作業員を守る対策は欠かせません。

個人防護具

  • 手袋二重装着。交換用も
  • マスク臭気・粉じん対策
  • ガウン防水エプロンも
  • 長靴踏み抜き防止
  • ゴーグル飛沫から目を守る
  • 消毒液手指・資機材用

着る前に破れを点検し、汚れた外側には触れません。破れたらすぐ交換し、脱ぐ場所を決めておきます。2人で互いに確認します。

防護衣の着方(着る順番)

  1. 手指を消毒する時計・指輪は外しておく
  2. 長靴をはくズボンの裾は長靴の中へ
  3. 内側の手袋をつける1枚目の手袋
  4. ガウンを着る後ろのひもを結ぶ
  5. マスクをつける鼻の形に合わせ、すき間なく
  6. ゴーグルをつけるフェイスシールドでも可
  7. 外側の手袋をつけるガウンの袖口を覆う
  8. 2人で互いに確認すき間・破れがないか

防護衣の脱ぎ方(脱ぐ順番)

  1. 外側の手袋を外す表に触れず、裏返して外す
  2. ガウンを脱ぐ汚れた面を内側に丸める
  3. 長靴を消毒して脱ぐ靴底も消毒する
  4. 内側の手袋を消毒手袋の上から消毒液で
  5. ゴーグルを外す後ろのバンドを持って
  6. マスクを外すひもを持ち、前面に触れない
  7. 内側の手袋を外す裏返して外す
  8. 石けんと流水で手洗い脱いだ物は密閉して廃棄

資機材

  • 納体袋・棺・シーツ納体袋は想定死者数の1.2〜1.5倍
  • ドライアイス毎日交換。供給協定を結ぶ
  • 番号札・記録用紙・カメラ取り違え防止の要
  • 照明・発電機・担架停電時でも作業できる体制
  • 献花台・線香・仕切りご家族が手を合わせる場

感染症予防対策

  • 防護具を必ず着用手袋二重・マスク・ガウン・長靴
  • 手洗い・手指消毒作業後・休憩前・食事前に
  • 器材・床の消毒次亜塩素酸ナトリウム0.1%など
  • 感染症の疑いは二重袋体液漏れを防ぎ密閉する
  • 平時の予防接種B型肝炎・破傷風など(医師と相談)
  • 作業区域で飲食しない休憩所は御遺体から離す

御遺体と感染症の誤解と事実

  • 遺体が疫病を広げる?自然災害では通常起こらない
  • 病気を広げやすいのは御遺体より生存者のほう
  • 急いだ集団埋葬公衆衛生上の根拠はない
  • 消毒剤・石灰の散布不要。病気予防の効果はない
  • 住民への一斉予防接種不要。衛生改善と周知が鍵
  • 水の汚染通常の水処理・消毒で防げる
  • 情報を伏せる不信と混乱を招く
  • 例外コレラ・エボラ等の感染症死

作業員の手袋・手洗いなどの標準予防策は、これまでどおり必要です。

出典:ICRC/WHO 災害後の遺体管理 第二版 第3章 p.7–9・よくある質問 p.35–36/PAHO/WHO p.66–67, 89

体液の処理

  • 防護具を着けてから手袋二重・ゴーグル・ガウン
  • 吸水材で吸い取る吸水シート・凝固剤・新聞紙
  • 外から内へ拭き取る汚れを広げない
  • 次亜塩素酸で消毒0.1%が目安。しばらく置いて拭く
  • ごみは二重袋で密閉感染性廃棄物として処理
  • 漏れを防ぐ納体袋に吸水シートを敷く
  • 皮膚に付いたらすぐ石けんと流水で洗い、報告

目や口に入った時は、大量の水で洗い、受診してください。

第5章 収容・タグ付け

一つの番号を、最初から最後まで。取り違えを防ぐ最大のポイントです。

納体袋への収納手順

  1. 準備と一礼2〜3人で、防護具を着用
  2. タグを確認・装着同じ番号を身体と袋の両方に
  3. 袋を横に全開で広げる頭側の向きをそろえる
  4. シーツごと水平に移す声をかけ合い、引きずらない
  5. 仰向けに整える装着物は外さない
  6. 空気を抜き密閉するジッパーを閉め、外側に番号を記入
  7. 記録と消毒台帳記入・写真・手指消毒

検視・検案が済むまで、洗浄や着替えはしません。

発見現場の区域分けと番号

  1. 現場を区域に分ける建物など動かない物を目印に
  2. 区域の略図を描く区域番号と発見位置を記入
  3. 担当班に記号を付けるA・B・Cなど班ごとに
  4. 発見順に連番を付けるA-1、A-2…と記録する
  5. 発見位置に目印旗やペイントで示す
  6. 現場では詳しく調べない身分証の確認はポケットのみ
  7. 書類は透明な袋へ同じ番号で、袋を開けずに読める
  8. 推定の身元は区別「推定」と明記する

出典:PAHO/WHO 災害時の遺体管理 p.32–34, 147

固有番号と受け渡し記録

  • 3つの要素で作る発見場所+チーム名+連番
  • 数字だけにしない重複・混乱のもとになる
  • 付け方を事前に統一関係機関で方式を合意する
  • 袋に直書きしない文字が消える。札を使う
  • 受け渡しごとに記録渡した側・受けた側・日時
  • 所持品は品目リスト御遺体と同じ番号で梱包
  • 識別票は2部1部は御遺体に、1部は保管
  • 最終の引き渡し誰に・いつ・承認者・行き先

出典:ICRC/WHO 第二版 第4章 p.11–12・第7章 p.23・別添3 p.49/Philippines 現場マニュアル p.58–59, 70

真空密封型納体袋(提案)

  • 空気を抜いて密封停電で冷やせない時の臭気・腐敗対策
  • 素材と厚さPEVA・PVC、0.3〜0.5mm
  • サイズ展開乳幼児・成人・大柄な方用
  • バルブは足元側頭部を避け、尊厳を保つ
  • 所持品ポーチ付き本袋と分けて汚染を防ぐ
  • 電動と手動ポンプ停電時に備え両方を用意
  • 吸引時の防護体液の噴出に備えフェイスシールド
  • 低速で吸引開始延長チューブで作業員を離す

現場導入の前に、強度・密封性と安全性の試験が必要です。

出典:日本防災教育訓練センター「カスタム遺体圧縮袋(VacSeal)の作成提案」

身体の一部(部分遺体)の扱い

身体の一部も、一人の方として同じ尊厳をもって扱います。

  • 一部位に一番号・一袋発見ごとに独立した番号を付ける
  • 現場で照合しない同一人物と決めつけない
  • 発見場所・日時を記録写真と位置を台帳に残す
  • 身元確認は専門家がDNA等は警察・医師が実施
  • ご家族へは慎重に説明後から別の部位が見つかることもある

装着物・所持品の扱い

衣服・装身具・所持品は、身元確認の大切な手がかりです。

  • 装着物は外さない衣服・指輪・時計・眼鏡はそのまま
  • 写真で記録する全体と模様・刻印など
  • 所持品は同じ番号の袋へ取り外しは警察の指示で
  • 貴重品は2人で確認現金・通帳等は立会いで記録
  • 返還時は受領書ご家族へ確実に引き渡す

タグ付けのルール

  • ①身体手首または足首
  • ②納体袋外側の頭側に
  • ③棺頭側と側面に
  • ④所持品袋同じ番号を記入
  • 防水用紙と油性ペンを使う
  • 結束バンド等で外れないよう固定する
  • 番号は付け替え・再利用しない
  • 番号は台帳・写真と必ず連動させる

タグ(遺体番号札)の様式例

遺体番号札
遺体番号例:○○市-A-0001
区分全身 ・ 身体の一部
発見日時 月 日 時 分
発見場所
性別・推定年齢男・女・不明 / 歳位
着衣・特徴
所持品袋番号
氏名(判明時)
記入者

同じ内容で2枚以上作成し(身体用・袋用)、防水紙やラミネート袋に入れて使います。番号は「市町村・場所・連番」で付けます。

第6章 検視・検案と手続き

検視は警察、検案は医師が行います。自治体は受付・記録・安置を支え、ご家族と手続きの窓口になります。

検視・検案の流れ

  1. 自治体搬入・受付番号照合・記録
  2. 警察写真撮影顔・全身・着衣
  3. 警察検視着衣・所持品・外表
  4. 医師検案死因・推定時刻・検案書
  5. 警察・歯科身元確認歯科・指紋・DNA
  6. 自治体安置・対面番号順に安置・ご遺族の対面
  7. 警察・自治体引き渡し書類・遺品を確認

検視場の動線

御遺体の動線(一方通行)
  1. 搬入口
  2. 受付・番号確認
  3. 写真・検視
  4. 検案・歯科・DNA
  5. 安置
ご家族の動線
  1. ご家族入口
  2. 受付・相談
  3. 待合所
  4. 写真・遺品で事前確認
  5. 説明・心の準備
対面室ここでだけ出会う

御遺体は一方通行で逆流させず、ご家族の動線と交差させません。両者が出会うのは対面室だけです。対面の後は引き渡し窓口へ案内します。

手続きと書類の流れ

  1. 医師死体検案書検案した医師が作成
  2. 警察御遺体の引き渡し検視後、ご遺族へ。引取書に署名
  3. ご遺族死亡届死体検案書を添えて市町村へ
  4. 市町村火葬許可証市町村が交付(埋葬・改葬の許可も)
  5. 火葬場火葬許可証に火葬済の証印
  6. ご遺族納骨・埋葬証印のある許可証を提出

身元不明の場合は、市町村長が火葬し、遺骨を保管・公告します。災害時は、国の通知で手続きの特例が出されることがあります。

検視場での自治体職員の役割

  • 受付と番号管理搬入時に番号と記録を照合
  • 記録・写真の補助警察の指示で台帳を整える
  • 資機材の管理納体袋・棺・ドライアイスを補充
  • ご家族の案内待合所での付き添い・説明
  • 事前確認への配慮写真・遺品で先に確認してもらう
  • 手続きの窓口死亡届・火葬許可の案内

検視・検案班の編成

  • 検視班は7名警察署ごとに原則3班
  • 検視班の役割責任者・記録・写真・指紋・立会い
  • 検案班は5〜7名監察医・応援医・補佐・事務
  • 歯科医師班1班2名以上で身元確認
  • 腕章で表示検案医であることを示す
  • 応援医師の確認顔写真付き身分証で本人確認
  • 受付は警察と協働市町村職員は受付班の指示で
  • 番号は2系統頭部のある遺体と一部遺体

出典:東京都「検視・検案等活動マニュアル」p.17–19(東京都の基準)

身元不明の御遺体

  • 情報を掲示する発見場所・着衣・所持品を一覧で
  • 写真を残す後日の照会の大切な手がかり
  • 警察の調査は約2日判明しなければ市町村へ引継ぎ
  • 引継ぎ後も調査継続判明したら市町村長へ通知
  • 火葬は約1週間後引継ぎから概ね1週間が目安
  • 記録を作り保存火葬台帳・費用の根拠書類
  • 遺骨・遺留品を保管処理票を付けて保管所へ
  • 1年で引取人なし身元不明者として納骨堂等へ

出典:東京都「検視・検案等活動マニュアル」p.17, 23, 34/広域火葬計画 別添 2(5)

第7章 管理表と安置中の管理

敬意・番号・記録が、確実な引き渡しの基本です。管理表はWord版(印刷して手書き)とExcel版(入力・集計)を用意しています。

御遺体管理表

  • 発見・収容日時・場所・搬送者・安置位置
  • 御遺体の状況性別・年齢・着衣・装着物・写真
  • 検視・身元確認検案医師・DNA・確認方法・氏名
  • ご遺族・処置連絡先・引き渡し・火葬・墓標

墓標情報管理表

  • 位置の記録緯度・経度・写真番号
  • 管理表と連動遺体番号から氏名を自動表示(Excel)
  • 巡回点検記録掘り返し・沈下・浸水・破損
  • 改葬の管理予定・済・改葬日・火葬場

写真撮影の基本セット

  • 全身・正面真横、中央の高さから
  • 顔全体・正面顔が画面いっぱいになるように
  • 特徴のある部位入れ墨・傷跡・あざなど
  • 衣服・装身具1点ずつ個別に撮る
  • 物差しを添える大きさが分かるように
  • 鮮明さを確認ぼやけた写真は使えない
  • 番号を必ず写すすべての写真に固有番号
  • 余裕があれば追加上半身・下半身・顔の側面

出典:ICRC/WHO 災害後の遺体管理 第二版 第5章 p.14

回収時に記録する項目

  • 固有番号すべての記録・写真に記入
  • 性別・年齢層乳児・小児・青年・成人・高齢者
  • 御遺体の状態良好・腐敗・白骨化・焼損
  • 見える特徴脱衣せずに見える入れ墨・傷跡
  • 身体の特徴身長・髪の色と長さ・変形
  • 歯の特徴金歯・かぶせ物・入れ歯
  • 発見の状況場所・日時・発見者・GPS
  • 推定される身元推定の根拠も書く

出典:ICRC/WHO 第二版 第5章 p.16・別添1 遺体情報フォーム p.40–42

収容・管理のポイント

  • 敬意をもって扱う一礼・声かけ・丁寧な所作
  • 番号は最後まで一つ発見時の番号を引き渡しまで使う
  • 発見時の状況を記録場所・日時・服装・所持品
  • 遺留品は御遺体と一緒に同じ番号の袋で保管
  • 安置中の状態を保つ室温管理。ドライアイスは毎日交換

腐敗臭への対応① 臭いを抑える

  • 冷やして腐敗を遅らせるドライアイス 冬10kg・夏30kg/日
  • 納体袋で密閉する体液漏れは二重袋で防ぐ
  • 換気を徹底するドライアイスによるCO2中毒に注意
  • 消臭剤・活性炭を活用汚れはすぐ清掃する
  • 作業員を守る活性炭マスク。休憩所は風上に
  • 作業後は着替え・入浴臭いは心の負担にもなる

腐敗臭への対応② 作業員を守る

  • 活性炭入りマスク防臭マスクを交換しながら
  • 休憩は臭いのない所で風上・別棟・屋外など
  • 作業着は持ち帰らない現地で着替え、分けて洗う
  • 入浴・洗髪をする髪や皮膚の臭いを落とす
  • つらい時は交代吐き気・頭痛は無理しない
  • 臭いでよみがえる記憶自然な反応。相談してよい

ドライアイスの当て方

  • 包んで扱う新聞紙・タオルで包み、軍手で
  • 胸から腹部に喉元〜下腹部。胃腸は腐敗が早い
  • 真下だけが冷える当てた直下にしか効果がない
  • 初日は20kg最初にしっかり冷やすと効果的
  • 見えないように覆うタオルやシーツで覆う
  • 大量使用時は換気換気に十分配慮する
  • 長距離搬送では補充搬送中もドライアイスを補充

国際マニュアル(ICRC/WHO)は冷蔵(2〜4℃)を第一とし、ドライアイスにはCO2中毒・凍傷の危険があるとしています。使う時は必ず換気します。

出典:広域火葬計画 別添「遺体適正処理ガイドライン」2(5)ア・2(7)ウ

安置室の室温とCO2の基準

  • 安置だけの部屋18℃未満でよい・CO2 5,000ppm
  • 職員が作業する部屋18〜28℃・CO2 5,000ppm
  • ご遺族が入る部屋18〜28℃・CO2 3,000〜3,500ppm
  • 換気の目安20〜30分に1回、対角の窓を開ける
  • 作業は短時間にドライアイス作業は15分前後まで
  • 棺をのぞき込まない顔を入れると死亡事故の危険
  • 棺を開けるのは短く1回2〜3分以内。職員が立会う
  • 付き添いの夜に注意CO2は床にたまる。定期的に換気

出典:厚生労働省 生活衛生課(令和7年10月29日)事業者等における適切な御遺体の取扱い等 p.8–9

第8章 ご遺族への対応

ショック・否認・怒り・自責は自然な反応です。受け止める姿勢で接します。

ご家族への対応と引き渡し

  • 手順と見通しを説明する確認の流れ・待ち時間を伝える
  • 対面前に状態を伝える心の準備ができるよう配慮
  • 急かさず、話を聴く安易な励ましは避ける
  • 書類と遺品の確実な返還検案書・火葬許可・受領書
  • 支援の窓口につなぐ葬儀・相談窓口の案内

対面の前に

  • 静かな個別の場所他のご家族と分けて待てるように
  • 見通しを伝える流れと待ち時間を説明
  • まず写真・遺品で確認直接の対面の前に確認してもらう
  • 状態を事前に伝える正直に、穏やかな言葉で
  • 対面はご家族が決める誰が対面するか。無理に勧めない
  • 付き添う職員を決める同じ職員が続けて対応

写真による確認

撮り方

  • 番号札を写し込むすべての写真に遺体番号を
  • 全体から部分へ全体→特徴の順に撮る
  • 服装色・柄・ブランド・サイズ表示
  • 持ち物財布・鍵・携帯・お守りなど
  • 装身具指輪の刻印・時計・眼鏡
  • 無地のシートの上で物差しを添え、汚れは軽く落とす

身体の特徴(手術痕・入れ墨など)は、警察の指示で撮影・管理します。

確認用ファイル

持ち物・服装の写真を、遺体番号ごとに1冊にまとめます。

  • A-0001-1上着
  • A-0001-2ズボン・靴
  • A-0001-3財布・鍵
  • A-0001-4携帯電話
  • A-0001-5指輪・時計
  • A-0001-6眼鏡・お守り

見ていただき方

  • 個室で行う職員が付き添い、急かさない
  • 持ち物・服装から顔の写真は必要な時だけ
  • 1枚ずつ見ていただく番号順のファイルで
  • つらい写真は予告する見るかどうかはご家族が選ぶ
  • 心当たりを記録写真番号・確認者・続柄
  • 写真を厳重に管理撮影・持ち出しはさせない

御遺体との引き合わせ方

  1. 写真・遺品で事前確認心当たりのある番号を確かめる
  2. 対面の意思を確認誰が対面するかはご家族が決める
  3. 御遺体の状態を説明見える部分・損傷を穏やかに伝える
  4. 御遺体を整える顔を清め、シーツで覆って整える
  5. 対面室へ案内する職員が付き添い、ゆっくりと
  6. 合図を待って覆いを外すまず顔から。職員が静かに
  7. 急かさず、そばで待つ触れ方は衛生面に配慮して案内
  8. 確認結果を記録する確認者・続柄・日時を管理表へ

声がけ

  • お名前で呼ぶ「○○さん」と、名乗ってから話す
  • ゆっくり、低い声で短い言葉で、一度に多くを伝えない
  • 沈黙を恐れない言葉より、そばにいることが支えに
  • 質問には正直に分からない時は「確認します」
  • 怒りは受け止める反論・言い訳をしない
  • 故人への敬意を示す故人も「○○さん」と名前で呼ぶ

言葉の例

かけたい言葉
  • 「お辛いですね」
  • 「ゆっくりで大丈夫です」
  • 「お手伝いできることはありますか」
  • 「何かあれば私に声をかけてください」
避けたい言葉
  • 「頑張ってください」
  • 「お気持ちはわかります」
  • 「見つかってよかった」
  • 「もっと大変な方もいます」

励ましや比較より、気持ちをそのまま受け止めます。

対面時・対面後

  • 時間を区切らないそばで静かに待つ
  • 触れ方を案内する衛生面に配慮し、手袋等を用意
  • 休める場所と飲み物対面後すぐに帰さない
  • 今後の流れを書面で引き渡し・火葬・手続きを説明
  • 一人で帰さない同行者と連絡先を確認
  • 相談窓口を案内グリーフケア・支援団体
  • 体調の変化に注意ふらつき・過呼吸・涙が止まらない

遺品は受領書とともに、丁寧にお返しします。

死亡・行方不明の伝え方

  • 事前に情報を集める故人の状況と伝える相手
  • 相手を確かめる最初に伝えるのに適切な方か
  • 個別に、2人で集団への告知は避ける
  • 座っていただく伝える職員も座る
  • 遺品は持参しない所持品を持って行かない
  • 簡潔に、率直に誤った希望を持たせない
  • 周囲に気を配る子どもや体調の変化に注意
  • 不明は不明と伝える確認前に死亡と断定しない

出典:PAHO/WHO 災害時の遺体管理 p.107–108, 114

身元確認への付き添い

  • 支援の姿勢「探すお手伝いをさせていただく」
  • 無理に語らせない初めは聴く姿勢でそばにいる
  • 泣き崩れた時息が整うまで寄り添って待つ
  • 倒れそうな時座ってもらい、拳に力を入れる
  • 自分を責める方に十分聴いてから「責めなくていい」
  • 帰り際の一言「○○さんのことを語り続けて」
  • 子どもには御遺体の確認を求めない
  • 行方不明のご家族生存を願う心と探す心を理解

出典:藤代「遺体確認時の遺族への支援」トラウマティック・ストレス10(1) p.58–62/ICRC/WHO 第二版 第9章 p.29

引き渡し時の確認と説明

  • 引取人を確認身元と故人との関係を確かめる
  • 申告だけで渡さない客観的な資料を得てから
  • 貴重品は現物確認引取書に署名をもらう
  • 検案書を必ず渡す死亡届で火葬許可を取るよう案内
  • 書類の紛失に注意許可証・検案書を失くさない
  • 早めの火葬を伝えるドライアイスを補充し速やかに
  • 連絡先を控える合同葬儀の参加希望も確認
  • 外国籍の方検視・検案後に領事機関へ通報

出典:東京都「検視・検案等活動マニュアル」p.23–24/広域火葬計画 別添 2(6)

第9章 行方不明者と情報発信

行方不明者の届出と生前情報の聞き取りは、身元確認を早める鍵です。報道や問い合わせへの対応も、窓口を一本化して行います。

行方不明者の相談窓口

  • 早期に開設自治体が警察と連携して設置
  • 安置所から離す静かな個室で聞き取る
  • 最初に同意を得る聞き取りと情報共有の同意
  • 原則は対面で再訪時も同じ担当者が対応
  • 1件に1つの番号重複届出による混乱を防ぐ
  • 預かり物は受領書写真・記録を預かる時に発行
  • 目的外に使わない身元確認のためだけに使う
  • 定期的に連絡捜索・確認の状況を伝える

出典:Philippines DILG/LGA 現場マニュアル p.42, 71–72, 83/NDMA Guidelines p.25–26/ICRC/WHO 第二版 第10章

生前情報の聞き取り項目

  • 基本情報氏名(別名・愛称も)・生年月日
  • 最後の目撃場所・日時・状況・目撃者
  • 身体の特徴身長は幅で。傷跡・入れ墨
  • 手術・医療器具手術歴・人工関節・ペースメーカー
  • 歯の情報治療歴・入れ歯・かかりつけ歯科
  • 服装・持ち物色・ブランド・サイズ・刻印
  • 最近の写真歯の見える笑顔のもの
  • 本人の愛用品くし・歯ブラシ等はDNAの手がかり

左右の取り違えが多いので、左右は必ず確認します。数値(身長・年齢)は「165〜170cm」のように幅で記録します。

出典:ICRC/WHO 第二版 別添2 p.45–48/NDMA Annexure-I p.78–85/PAHO/WHO p.18, 29–30, 47–49

報道対応と情報発信

  • 窓口を一本化広報担当者だけが発表する
  • 最初の24時間現実的な状況を早く伝える
  • ご家族に先に氏名公表は通知の後
  • 事実と数字で憶測・私見は話さない
  • 分からない時は分からないと正直に認める
  • 個人情報は渡さない写真・記録・安置所の撮影不可
  • 定期的に発表死者・不明者・判明数を毎日
  • 問い合わせ窓口ご家族向けに24時間対応

出典:PAHO/WHO p.3, 6–7, 113, 155/ICRC/WHO 第二版 第11章 p.33–34/NDMA p.31–33

外国人の御遺体

  • 領事機関へ通報検視・検案後に大使館・領事館へ
  • 外務省と連携本国の政府機関と調整
  • 外国人死者の名簿判明・不明とも整理して報告
  • 国際様式で聞き取りインターポールのDVI様式
  • 本国への移送検疫・外交当局の規則に従う
  • 言語の支援通訳を手配して説明する
  • 宗教・慣習に配慮イスラム教の土葬など

出典:NDMA Guidelines p.28, Annexure-K/Philippines 現場マニュアル p.27, 33–37, 69, 94/東京都マニュアル p.24

第10章 葬祭業者・広域火葬

協定に基づき葬祭業者へ引き渡す時は、番号と書類の確認を確実に行います。火葬場が足りない時は、都道府県が調整する広域火葬で対応します。

葬祭業者への引き渡し手順

  1. 協定に基づき依頼する人数・車両・棺・ドライアイス
  2. 日時と場所を調整する安置所の搬出口を指定
  3. 番号と氏名を照合する2人で読み上げて確認
  4. 書類を確認・交付する死体検案書・火葬許可証
  5. ご家族の意向を伝える宗教・立会い・遺品の扱い
  6. 受領書に署名をもらう業者名・担当者・車両番号
  7. 管理表に記録する処置・日時・受領者を記入
  8. 到着・火葬の報告を受ける火葬場到着と完了を確認

広域火葬の進め方

  1. 火葬場の被災確認炉・稼働・火葬要員の状況を把握
  2. 都道府県へ応援要請通常の火葬場で困難な時
  3. 都道府県が実施を決定区域全体を広域火葬体制に
  4. 住民へ周知する許可証窓口・広報で理解を求める
  5. 火葬場を割り振る受入可能数に応じ都道府県が調整
  6. 受入火葬場と確認搬入時刻・火葬数・所要時間
  7. 送付票を添えて搬送緊急通行車両で受入火葬場へ
  8. 実施状況を報告火葬場は日報、市町村は依頼状況

出典:東京都「検視・検案等活動マニュアル」p.30–33/厚労省 健衛発0730第1号(H26)

火葬場への搬送と搬入

  • 専用車で運ぶご遺族の心情から霊柩車等が望ましい
  • 交通規制の時緊急通行車両で搬送する
  • 上げ下ろし要員搬送担当とは別に数名を確保
  • 余裕をもって出発火葬場の予約時間前に到着
  • 同行者は最小限火葬を待つ多くのご遺族に配慮
  • 書類の持参火葬許可証などを忘れない
  • 所要時間の目安1棺あたり1時間30分〜2時間
  • 火葬場と事前調整待機所・拾骨・読経の可否

出典:広域火葬計画 別添 2(7)(8)/東京都マニュアル p.33

第11章 仮埋葬・掘り起こし

仮埋葬は「火葬までの保存の延長」です。広域火葬を優先し、やむを得ない場合の最終手段として計画します。

東日本大震災の教訓

  • 宮城県で約2,100体発災約10日後から仮埋葬を実施
  • 想定外の早期改葬数か月で掘り起こし、負担が増大
  • ご遺族の強い抵抗感事前の説明と合意形成が欠かせない

出典:日本防災教育訓練センター資料

仮埋葬地の選定

  • 高燥で地盤が安定水はけが良く掘削できる
  • 水源から離す井戸・河川・地下水を汚さない
  • 浸水域を避ける津波・洪水の想定区域外
  • 人目につきにくい避難所・病院から離す
  • 車で1時間以内安置所・火葬場から
  • 公有地・許可・説明墓地埋葬法の許可と住民説明

面積の目安は1体あたり幅1.5m×長さ3m。重機の作業スペースも確保し、平時に候補地を複数選んで協定を結びます。

仮埋葬地の距離の目安

  • 井戸・飲料水源から200m以上(250mとする資料も)
  • 湧水・水路から30m以上
  • 農業用排水路から10m以上
  • 地下水位との差墓底から1.2m以上(砂地1.5m)
  • 覆土の厚さ90cm〜1.2m(動物よけ)
  • 御遺体の間隔0.4〜0.5m。一層に並べる
  • 周囲の緩衝帯幅10m以上を確保
  • 恒久的な標識固有番号を刻んだ墓標

距離は地質によって変わります。地元の保健・環境部門と確認してください。

出典:ICRC/WHO 災害後の遺体管理 第二版 第7章 p.24・第8章 p.27–28・別添7 p.59

仮埋葬地のレイアウト例

区画A(身元判明)
12345
区画B(身元不明)
12345
重機・残土置場
休憩・消毒
進入路(重機・車両)
受付・記録
献花所

▲ 出入口(1か所)

身元判明・不明で区画を分け、作業とご家族の動線を分けます。周囲は目隠しで囲い、出入口は1か所にします。

埋設要領(手順)

  1. 事前確認検案書・許可・ご遺族の承諾書
  2. 日程の通知ご家族へ日時と場所を伝える
  3. 搬送密閉を確認し、緊急通行車両で
  4. 掘削重機で深さ1.5〜2m
  5. 埋設棺は一層に並べ、重ねない
  6. 墓標と位置の記録番号の墓標・地図とGPS
  7. 終了と消毒黙とう。器材と作業員の消毒

後の改葬(掘り起こし・火葬)が前提です。

穴の深さと縦横サイズ(1体あたり)

断面図(横から)

棺 覆土 1m以上 墓標(番号) 深さ1.5〜2m

平面図(上から)

穴 幅1.5m 長さ3m
穴の長さ約2.5m
穴の幅約1.0m
深さ1.5〜2m(棺の上の土は1m以上)
区画3m×1.5m
隣の穴との間隔約0.5m

水が湧く場所は不可。寸法は地盤と棺の大きさに合わせて調整します。

埋設に必要な物資

  • 重機・ダンプバックホー・残土の運搬
  • スコップ・つるはし手掘り・穴の整形用
  • ロープ・ベルト棺の吊り下ろし用
  • 消石灰(使う場合)防臭の補助。国際指針では不要
  • シート類ブルーシート・目隠し用
  • 墓標・測量用具番号杭・メジャー・水糸
  • 記録用具台帳・地図・GPS・カメラ
  • 照明・発電機・テント夜間・雨天・休憩所

消石灰を使う場合の注意

国際指針(ICRC/WHO)では、消石灰や消毒剤の散布は不要とされています。使う場合は、強アルカリ(水酸化カルシウム)であることに注意します。

  • 散布する場所穴の底・棺の周り・覆土の上
  • 目的消毒と防臭の補助
  • 防護具を着用ゴーグル・手袋・マスク
  • 生石灰と区別する生石灰は水で発熱し危険
  • 強風の日は避ける飛散させない
  • 目に入ったら大量の水で洗い、受診する

埋設場所の管理方法

  • 立入を管理するフェンス・施錠・出入口1か所
  • 管理責任者を決める連絡先を現地に表示
  • 定期的に巡回する動物の掘り返し・沈下・浸水
  • 位置を記録する区画図・GPS・写真
  • 台帳を二重保管紙と電子で別々に保管
  • ご家族の参拝に配慮献花所を設け、時間を案内

改葬が終わるまで、記録と現地を守り続けます。

掘り起こし(改葬)の手順

  1. 改葬の許可と計画墓地埋葬法の改葬許可・日程
  2. ご家族へ連絡承諾・立会いの意向を確認
  3. 位置と番号の照合台帳・地図・墓標で確認
  4. 現場の準備目隠し・立入規制・防護具
  5. 重機で掘削棺の手前約30cmまで
  6. 手掘りで棺を出す番号を確認し、静かに上げる
  7. 移し替え・消毒破損時は新しい袋と棺へ
  8. 搬送・火葬と記録台帳更新・埋め戻し・消毒

掘り起こしの要注意点

夏季は避け、気温の低い時間帯に作業します。

  • 有毒ガス・酸欠一人で穴に入らない。換気する
  • 穴の崩落法面を緩く、土留めをする
  • 体液・強い臭気二重袋・吸水シート・防水装備
  • 重機との接触誘導員を置き、合図を統一
  • 取り違え防止番号を2人で読み上げて確認
  • 作業員の心のケア短時間で交代。事後のケア

掘り起こし後の火葬の手順

  1. 火葬場を確保する広域火葬で近隣自治体と調整
  2. 許可書類の確認改葬許可・火葬の許可
  3. 番号と身元の再確認台帳と照合。必要なら再検案
  4. 納体袋・棺を新しくする消毒し、番号は付け直さない
  5. ご家族へ連絡日時・火葬場・立会いの意向
  6. 専用車両で搬送葬祭業者・霊柩車協会と連携
  7. 火葬と収骨宗教・慣習に配慮する
  8. 遺骨の引き渡しと記録受領書。台帳を「改葬済」に

第12章 研修・訓練

「知っている」から「できる」へ。関係機関と合同で、定期的に行います。

  • 図上訓練安置所・仮埋葬地の開設を想定
  • 実動訓練候補施設で配置・搬送を確認
  • 防護具・納体袋の実技着脱・収納・タグ記入を練習
  • ご家族対応の演習ロールプレイで言葉かけを練習
  • 惨事ストレスの事前教育起こりうる反応と対処を学ぶ

第13章 ストレスと心のケア

悲惨な現場での活動で生じる心身の反応は、誰にでも起こる「異常な事態への正常な反応」です。

惨事ストレスとは

  • 身体不眠・食欲低下・頭痛・強い疲労
  • 感情不安・無力感・罪悪感・怒り
  • 思考集中できない。場面や臭いがよみがえる
  • 行動飲酒・喫煙の増加。人を避ける

数週間以上続く・悪化する場合は、専門家の支援につなぎます。

心のケア 活動前・活動中

  • 活動前に状況を伝える現場の様子を事前に知らせる
  • 交代制で長時間を避ける時間を区切り、休憩を確保
  • バディ(2人1組)互いの様子に気を配る
  • 休憩所・食事・水分御遺体から離れた場所で
  • 経験の浅い人に配慮単独で担当させない

心のケア 活動後

  • 終了時の短いミーティング労い・情報共有・体調確認
  • セルフケア睡眠・食事・話せる相手
  • ストレスチェック活動後と1か月後などに
  • 相談窓口・専門家へ組織として相談しやすく

体験や感情を無理に語らせないでください。話したい人が話せる場をつくります。

自治体職員の惨事ストレス

置かれる状況

  • 自分も被災者家族・自宅の被害を抱えて働く
  • 経験のない業務御遺体の収容・管理は非日常
  • ご遺族の悲しみと怒りやり場のない感情を受け止める
  • 知人・子どもの御遺体地域の顔見知りに対面する
  • 長時間勤務交代要員がなく休めない
  • 休みにくい立場住民の目があり弱音を吐けない

兆候

  • 眠れない・悪夢寝つけない、夜中に目が覚める
  • 食べられない食欲低下・吐き気
  • イライラする怒りっぽい・涙もろい
  • ミス・物忘れ集中できず判断が遅れる
  • 無口・孤立人を避け、話さなくなる
  • 飲酒・喫煙の増加眠るために飲む
  • 休まず働き続ける休むことに罪悪感がある
  • 場面・臭いがよみがえる急に思い出してつらくなる

心構え

  • 何を見るか事前に知る現場の様子を聞いてから入る
  • 反応は自然なこと誰にでも起こる。弱さではない
  • 一人で抱えない仲間と分かち合ってよい
  • 時間と役割を区切る終わりの時間を決めて働く
  • 完璧を求めないできたことに目を向ける
  • 交代を申し出てよいつらい時は遠慮なく伝える

セルフケア

  • 眠る・食べる・飲む少しでも睡眠と食事・水分を
  • 現場から離れて休む休憩は別の場所で
  • ゆっくり息を吐く4秒で吸って、6〜8秒で吐く
  • 入浴・着替えで区切る仕事と生活の区切りをつける
  • 信頼できる人と話す話したい時に、話せる範囲で
  • お酒に頼らない眠りが浅くなり、回復が遅れる

2週間以上続く・悪化する時は、専門家に相談してください。

相互ケア

  • 2人1組で声をかけ合う互いの様子に気を配る
  • 具体的にたずねる「眠れてる?食べてる?」
  • 否定せずに聴く無理に聞き出さない
  • 休憩・交代をすすめる「少し休もう」と声をかける
  • 管理者の役割労い・勤務時間の管理
  • 専門家へつなぐ気になる人は早めに相談
  • 職員の家族にも配慮家族の安否・生活を支える

仲間を気づかうことが、自分を守ることにもなります。

作業員の配置と健康管理

  • 若い職員への配慮21歳未満は御遺体作業を避ける
  • 水分を多めに必要量が普段の3〜4倍になることも
  • 飲食は作業場の外でふたのない容器を置かない
  • 最終日に振り返りチームで体験を分かち合う
  • 1週間後にも集まる心身の様子を確かめ合う
  • 専門家につなぐ長引く反応は早めに相談

出典:PAHO/WHO 災害時の遺体管理 p.22–23, 111–112

第14章 チェック・まとめ

平時の準備を点検し、足りないところから整えていきます。

平時の準備チェックリスト

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まとめ

  • 場所安置所・仮埋葬地を平時に決める
  • 装備防護具・納体袋・タグを備蓄
  • 研修関係機関と合同で実技訓練
  • 心のケア職員自身を守る仕組みを

御遺体の尊厳、ご家族の心、そして職員の心を守ることが、災害対応の大切な一部です。

第15章 参考資料

この手引きは、次の資料をもとに作成しています。各項目の下に出典を記しています。

  1. PAHO/WHO「災害時の遺体管理」日本語版汎米保健機構・世界保健機関
  2. Management of Dead Bodies in Disaster SituationsPAHO/WHO(英語版)
  3. 災害後の遺体管理:初動対応者向け現場マニュアル 第二版ICRC・WHO・IFRC ほか
  4. Management of the Dead in the Aftermath of Disastersインド国家災害管理庁(NDMA)
  5. Management of the Dead and Missing Persons Field Manualフィリピン内務自治省 地方政府アカデミー(2021)
  6. 災害時における遺体の取扱いに関する共通指針(検視・検案等活動マニュアル)東京都(平成29年8月)
  7. 遺体の取扱いに対する心得及び遺体適正処理ガイドライン広域火葬計画 別添
  8. 健衛発0730第1号(平成26年7月30日)厚生労働省 健康局生活衛生課長通知
  9. 事業者等における適切な御遺体の取扱い等に関するガイドライン厚生労働省 生活衛生課(令和7年10月29日)
  10. 遺体確認時の遺族への支援藤代 富広 トラウマティック・ストレス 第10巻第1号
  11. 大規模自然災害発生後のご遺体管理(仮埋葬)について日本防災教育訓練センター サニー カミヤ
  12. カスタム遺体圧縮袋(VacSeal)の作成提案日本防災教育訓練センター サニー カミヤ

資料ダウンロード

研修用スライド(PowerPoint)と、現場で使う管理表(Word・Excel)です。自由に編集して地域の計画に合わせてお使いください。

管理表には氏名・住所・遺族連絡先が入ります。閲覧者を限定し、パスワード設定などで厳重に管理してください。

本手引きは一般的な流れを示したものです。検視・検案、手続き、役割分担は地域の防災計画・協定、都道府県警察・医師会の運用に合わせて確認してください。